夏目漱石の作品で一二を争うくらい、これが好き♪


内容紹介
学卒業のとき恩賜の銀時計を貰ったほどの秀才小野。彼の心は、傲慢で虚栄心の強い美しい女性藤尾と、古風でもの静かな恩師の娘小夜子との間で激しく揺れ動く。彼は、貧しさからぬけ出すために、いったんは小夜子との縁談を断わるが……。やがて、小野の抱いた打算は、藤尾を悲劇に導く。東京帝大講師をやめて朝日新聞に入社し、職業的作家になる道を選んだ夏目漱石の最初の作品。

著者:夏目漱石
出版社:新潮社(新潮文庫)


夏目漱石といえば、『草枕』のイントロ
「智に働けば、角が立つ~」がアホほど好きなのです。
(大学時代にこのフレーズを知り、初めて教えてくれた教授のゼミを迷わず受講しましたが
その教授のゼミはバリッバリの現代哲学で
こんなにもヘンな勉強が世の中にあるのだと知ったことを含めて
いい思い出でございますwww)

でも、折々に読みかえすのは
この『虞美人草』ともう一冊『夢十夜』くらいかも。

漱石というのは内容もいいんですけど、文章のリズムに独特のうねりがあるんですよねー。
あんまり好きじゃない内容でも、そのうねりで読めてしまうところがあるので
わたしはこの方の言語感覚に惹かれているんだろうなーと
読みながらいつも思っています。

しかしながら、漱石自身はこの『虞美人草』をあまり好まなかったようです。
そう何かで読んで、さもありなんとうなずいてもいます。
だって、漱石さん
この作品では風呂敷を畳み損ねているんですものw

最後の結びがなかなかにバタバタしていまして
ちょっと
打ち切りの宣告を受けた連載マンガのような風情なんですw
たとえがちょっとアレですけども
でもそんな感じなんですよー。

なんたって、主要人物が〈憤死〉しますからw
脳内の血管が切れてお亡くなりに…って感じなんでしょうかね。
ホントにもうキャラが立ってい過ぎる人なので
泣いたり譲ったりするのは彼女には絶対に!できない。
じゃあどうする?って…
たとえ現実でありえなくても、物語の筋としてはこの流れしかない、っていう展開なんですわね。

全編、そんな感じで奇妙だけれどもリアリティがありまして。
例えば宗近さん
ご近所で以前からずっと仲良く近しく過ごしてるのに
甲野さんの苦悩にも、継妹はともかく継母がアレなのに気づかなかったのかがちょっと不思議だったり。
宗近パパも引っかかりはあるものの、ちゃんと気づいているわけではないし、
男の人ってそういうものなのかなあ。
まあ、男性に限らず、健やかな方独特の鈍さっていうのはあって、
宗近家(の男性)はまさにそんな感じです。
甲野さんは繊細だけど、家の中での屈託がなければ
似たように鈍かったかもしれないですねー。だから甲野さん宗近さんは仲がいいんだと思うのねん。

モノを深刻に考えられないタイプの鈍い人も脇役で登場しますが
この鈍さの違いについてはかなりハッキリと書き分けられています。さすが漱石!です。

男性の書き分けも様々なら、女性の書き分けもまた様々。
宗近さんの妹の糸子ちゃんが可憐でねえ。
容貌については詳しく書いていませんが、たぶん十人並み。
でもっておっとりしていて目立たないけど気立てがよくて
でもタフなところもある、男性の理想の奥さんタイプと思われます。
山本周五郎もたまにこんな感じの女性書きますよね~。

でね、わたしこの作品で好きなのは
具体的な弱点に対して、漱石のツッコミもきっちりと入っているところ。
一番好きで何度も読み返すのって
小野さんの許嫁・小夜子さんが、古風に育てられた性質のゆえにはきはきと喋れず、
父の留守に訪ねてきた許嫁を引きとめられなかった場面で
帰ってきた父親が「何か口をきかなくちゃいけない」みたいなことを言う場面なんです。
口をきけないように育てたのは当の父親なわけでしょー。
そういう指摘をさりげなく地の文で入れていたりして
そういえばオンノベでもこんなふうに上手にツッコミが入ってる作品は共感しやすいんだよねと明治の文豪と現代のインディーズ作家の意外な共通点を見つけてみたり。

クライマックスの小野さんの変心は唐突にも感じられますが
読みこむと、小野さんも藤尾さんも相手がホントに好きで結ばれたいわけじゃなくて
都合のいい人だから自分に役立てよう、みたいな利己心から近づいて事をすすめていたのがわかります。
藤尾さんはそのことに対して後ろめたさも何にも感じてない強さがあるけど
小野さんは援助してくれた小夜子さんの父親や、もちろん小夜子さんに対しての情はずっと抱いてて
でもそれは今後の利益とは相反するし、情にたいして「古くさい気持ちじゃないか」って誤魔化したがっていて。
自分の中にあるいい部分を否定しているから、フラフラいつも揺らいでしまう。
そんな急所を宗近さんに突かれちゃったんですもん、ぐうの音もでなくなりますよねー★

宗近さんの活躍により、勧善懲悪の流れとなり
けれどヒーローの宗近さんは、活躍のあとさっそうと海外へ赴任し
送ってきた手紙が物語の結び。
ちょっと煙に巻かれたようで、ふわっと吹いた風に手紙が舞うような終わりかたが
昔は好きじゃなかったんですが、
最近は、これはこれでアリだよなーとも思っています。

冗長かと思えばテンポよくスリリングにもなり
妙に型にはまった部分があるかと思えば、そこをさりげなく洒落のめしてみたり
地に足がついているしっかりしたところも
物語らしい、フィクションらしい展開もあり、多面的に楽しめます。
連載物のリズムの揺らぎがあるのは、整合性を求める人には難点になるのかもしれませんが、わたしはこの作品のキッチリしていない不完成さが好きですねー。

今さら紹介する必要がないくらいの古典であり名作ですが
惚れ込んだ作品について書けるのはやっぱりとっても面白かったです。
おつきあいくださり、どうもありがとうございました♪



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